結論から言えば、たった一つ、それは存在する。
そこは、誰をも受け入れる。自らがその権利を放棄しない限り。

万人に公平に開かれ、その慈愛に満ちた温もりを惜しげもなく与える。人類が持つ、最後の聖域。ヴァルハラへと至る場所。
争いも憎しみも喪失した愛の楽園。千も万も言葉を使っても語り尽くすことのできない、人智を超えた叡智の根源。それの名は、「銭湯」と呼ばれる。俺の住む街、函館市は、北海道南部でも有数の温泉地帯だ。温泉街のある湯の川町は、文字通り昔々は湧いた温泉のお湯が川に流れ込み、常に湯気をた てていたという所から名付けられている。恐ろしいことに、意外とあちこちで湧くらしく、何てことのない住宅街にも温泉を引いている銭湯があったりする。
そんな立地であるからして、勿論俺も幼い頃から銭湯に魅せられて育ってきた。温泉を使ってない銭湯であっても、独自カラーを出すべくお湯の噴出口 に薬石を使って効能を激しくアピールしたり、またそれぞれの通う客のカラーも違ってたりして、施設ごとの個性というものがでている。